スポーツ外傷における初期治療として【RICE(rest, ice, compression, elevation)】が普及していますが、【I:冷却・アイシング】に対する誤解が多いと感じましたので整理します。
アイシングに治療効果、損傷の予後改善効果は医学的にありません。
効果があるという検証結果がなく、明確なエビデンスがないです。
誤解のないように書くと、仮にあるとしても、【C:圧迫】に勝るものではありません。
アイシングに効果があるとすれば、冷却による神経細胞(一時的)損傷による鎮痛作用、周囲組織におけるサイトカインカスケードの惹起抑制(ほんとに?)でしょうか。
アイシングすることで血管を収縮させるとの記述を目にしますが、圧迫して血管内空を潰すすほうが確実です。冷却で血流が遮断されることはないです。てかそれでは凍傷です。人の体、ホメオスタシスはそんなにやわではありません。
骨折などの重症例を除きますが、スポーツ外傷への対応は、ダメージコントロールです。受傷によるダメージを最小にとどめ、回復にかかる時間を短縮することが目的です。
では、コントロールすべきは何かといいますと、損傷部位にて形成される血腫(けっしゅ:血液成分と組織の細胞とがグズグズでベタベタな状態)の大きさ、です。
受傷のエネルギーによって毛細血管が損傷して組織内に出血がおきます。血管外に漏出した血液成分により炎症のトリガーがひかれ、血管透過性が亢進してさらなる血液成分の漏出(血管壁を白血球が通過しやすくなる)がおこり炎症が拡大していきます。また回復期にあっては、血腫が存在することで筋・腱組織の血流が阻害され細胞レベルでの回復の遅延がおこります。血腫そのものや炎症により、周囲組織が癒着をおこし機能不全となります。血腫がマクロファージに吸収される際にもサイトカイン放出による炎症が起こります。血腫サイズが大きいほど、さらに回復に時間がかかることになります。
でRICEです。
【受傷】ダメージの発生。組織の破壊=毛細血管の破綻、組織内出血。
↓
【R(運動の停止)】:さらなる組織の破壊を止める。
↓
(I(冷却):神経を冷却することで損傷し、鎮痛効果を得る。皮膚・組織障害(凍傷)のリスクあり。)
↓
【C(受傷部位の圧迫)】:組織における毛細管レベルの出血を防ぐことで、局所の炎症を最小のものとし、回復期の障害素因となる血腫の発生を最小のものとする。
↓
(E(受傷部位を心臓より下にしない):出血コントロールの基礎ですが、あくまで補助的なもの。)
R→I→C→Eと、処置の順番に文字が並んでるのはよくデザインされていますね。
アイシングによる組織損傷の予後改善のエビデンスは、推奨されるレベルのものはないです。メジャーの投手が肩冷やしてますが、目的は毛細血管の出血コントロールでなく、筋の冷却であり、炎症細胞の酵素阻害・サイトカイン惹起抑制でしょうか。試合直後の冷水浴もエビデンスは不明のはず。エビデンスがあっても上記と同じ機序と予測します。
運動の継続を止めるポジションにいる方(コーチ、レフェリーなど)には【R:運動の停止】の指示。
初期治療に当たる立場の方(コーチ、トレーナ、メディカル)には【C:圧迫】。
10分もしっかり押さえれば、主要な動脈損傷でないかぎり、1次止血を得ることができます。
末梢動脈の血圧が120mmHg≒16.0kPa≒0.16kg/cm2→1平方cmにおよそ160g重。
細動脈の血圧は35mmHgくらいで、≒4.7kPa≒0.048 kg/cm2→1平方cmにおよそ48g重。
(今の中学ではKg重はもう使ってないそうで。Nニュートンに統一だそうです。)
けっこうしっかり押さえるので、当然受傷者は痛がります。ので、鎮痛効果を期待してアイシングとなります。鎮痛させるために初期圧迫と同時に行うこととなりますが、目的は圧迫による血腫抑制であり、アイシングは血腫抑制に対する直接の効果はないです。
きちんとした説明を載せてるとこでは、最初の10~20分を圧迫&冷却、そこから1時間ほどは圧迫のみとなってますね。
重視すべきは圧迫である点をご理解ください。
■メディカル通信 第4回 筋の打撲は初期治療が大事です ―筋の打撲で、まずアイシングをしていませんか?―
筋の打撲を生じた場合、アイシングをまず行うのではなく、まず圧迫を強く行うことが大切です。とくに受傷後1時間以内が大切で、この処置を十分に行うことで出血を抑えることができ、その後の回復に非常に良い影響を及ぼします。強く圧迫することにより、血流の障害が生じても1時間以内ならば問題ありません。アイシングしながらの中途半端な圧迫ではなく、選手が大変痛がっても、十分な圧迫が必要です。 もちろん、PRICEは重要な処置であり、アイシングも圧迫と同時にできれば、行った方が良いですが、最優先は圧迫であることを理解することが大切です。↑JFA メディカルの記事より
(筋打撲に関してですが。P:protectionを加えたPRICEになってます)
■Vol.03 外傷の初期治療と方法-2 RICE :WASEDA CLUB “Roo”のスポーツクリニック
■FOOT×BRAIN 鹿島チームドクター
■腰痛にアイシング:興ざめなエビデンス不足の実態
■アイシングに関する科学的エビデンスはただ冷やすだけ
上記の元の文献
■Bleakley et al. :The use of ice in the treatment of acute soft-tissue injury a systematic review of randomized controlled trials. Am J Sports Med January vol. 32 no. 1: 251-261, 2004.
■MacAuley D, :Do textbooks agree on their advice on ice? Clinical Journal of Sport Medicine. 11(2):67-72, April 2001.
■冷水浴は筋肉疲労回復に効果なし(2007.7.19掲載) :ヘルスデージャパン
当ブログ記事内では、アイシングは冷やすだけのもの、と定義しています。
氷やアイスパックでおさえつけるのは、つまりは圧迫していることです。
文責:矢野